extra work in Vietnam


ベトナム・ベンサン病院にて


お知らせ

2018年10月、株式会社明石書店より、『ベトナムに生きるハンセン病の人々と自立への支援—(元)患者の社会復帰支援の意味を問い直す—』を上梓しました。



“居場所のない人”のための社会学


  • ベトナムのハンセン病

私のメインの研究テーマですが、ベトナムのハンセン病患者(その子ども含む)の社会復帰支援です。

差別や偏見を伴う病気に罹患したことにより、通常の社会生活が困難になってしまった人びと…その代表がハンセン病の患者さんです。

私はある出会いにより、あまり注目されることのない、ベトナムのハンセン病の患者さんと知り合いになる機会を得ることができました。

ハンセン病専門治療病院に通ううち、患者さんたちからぽつりぽつりと話すその人生について教えてもらいました。何十年と実の家族と会っていない方、物乞いをして生きてきた方、自分の子どもと連絡が取れなくなっている方、戦争で夫と息子さんを亡くした方…。

私は金持ちでもなければ医者でもありません。見ず知らずの外国人である私に心を許してくれた患者さんたちに、一体何ができるのか。自問自答しました。

私にできること。それは、この人たちが語った言葉を残すことであり、ハンセン病と共に生きてきた人たちの存在を知らしめ、よりよい生活が送れるよう支援を考えること、であると思い至りました。

そして、ベトナムに通い、患者さんたちの話を聞き、まとめ、分析した結果を研究活動として発表しています。研究のデータは患者さんの生活の質の向上のため、すべてベトナムの治療施設に還元し、自立支援プログラムの策定などに反映して頂いています。


  • 知的障害者の生きる場所

ベトナムのハンセン病問題について研究を行う以前には、日本国内で知的障害者を対象とした研究をしていました。

1990年代の話ですが、知的障害者を対象とした研究は親や施設職員を対象としたものばかりで、知的障害者本人を対象とした研究は見当たりませんでした。

当時、私が参加していた知的障害者のボランティア団体で、参加メンバーである知的障害者の方の話を聞いていました。「大好きだったおじいちゃんのお葬式に出席できなかった」、「歯医者に行くと悪くもない歯を抜かれる」、「知的障害があるからといって中絶させられた」、「就労先でいじめられた」といった話が聞かれました。いずれも「知的障害があるから」という理由によるものです。

この世界では「正常な理性」をもつ「健常者」が正しく、知的に劣ったとみなされる知的障害者は正常性の範疇から排除されがちです。そうした問題について、知的障害者本人にインタビューし、かれらがどんな日常を生きていて、何を感じているのか、ということについて研究をしていました。


…とこのように、私はその時の自分の関心に従って研究テーマや対象を変えています。振り返ってみても、このようなことは、大学の教員にはあまりみられないことだと思います。なぜなら、大学に所属する研究者は、自分の専門分野に基づいた何かしらの「看板」を持っているからです。


自分の「看板」って何だろう?

そう考えたとき、自分のやって来たことには首尾一貫性が欠けているような気がしました。専攻した分野を振り返っても、大学では社会福祉、最初の大学院では社会学、次の大学院では国際協力学でバラバラです。

あえて言えば「社会学」の分野に収まる研究ではありますが、社会学自体も実にさまざまな分析対象を含むものであり、自分の研究がどこに収まるかはっきりしません。

しかし、これまで取り組んできたことを並べてみると、ある共通点があることに気がつきました。

それは、“居場所のない人びと”が私の研究対象であるということです。病や障害、あるいは事故などによって家族や社会から居場所を奪われ、一定の距離が置かれた空間で生きることを余儀なくされる。そうした人びとこそが私の関心であるということに気づきました。


なぜそうした人びとに関心が向くのか。それは私自身がかつて“居場所のない”子どもであったからに他なりません。


その他、授業では社会的ひきこもり、ニート、里親制度、原発事故による自主避難者の問題などについて取り上げています。


こうした自分の関心に基づく研究活動の総体に名前を付けるとしたら、それは「“居場所のない人びと”のための社会学」かと思っています。


社会は強者によってのみ成り立っているのではなく、無数の少数者も含まれます。また、強者とされる人たちも永遠に強者でいられることはありません。人びとの営みに焦点を当てる場合、どの視線からその事象を捉えるか。私の場合それは少数者の視点であり、Vulnerability(傷つきやすさ)を抱えた人たちの視点から社会を捉えていきたいと思います。


©WATANABE HIROYUKI 2018
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